読んだ本の記憶と記録

小説を読みます。読んだ感想を垂れ流します。

江國香織『ウエハースの椅子』こんな風に言葉を紡げたら、きっと見える世界が違うと思う

どうも、ピコです。

『ウエハースの椅子』読み終わりました。

『ウエハースの椅子』

ウエハースの椅子 (ハルキ文庫)

ウエハースの椅子 (ハルキ文庫)

  • 作者:江國 香織
  • 発売日: 2004/05/01
  • メディア: 文庫
 

↑これ

おすすめいただいて、初めて江國香織さんの本を手にとりました。恋愛小説はまず読まないので、どんなもんかなと思いながら読み始めたもんです。

感想

主人公は38歳の画家。妻子ある恋人。この恋のゆく果ては…

ストーリーラインらしきものはなく、ショートストーリー的進行でエピソードが繋がって話が進んでいく。主人公の感情表現が非常に豊かで繊細であり、性別は違うものの共感できるポイントが多くあった。背中合わせの幸せと孤独、常にそこにある絶望。次第に歪んでいく、もしくは歪みが戻っていく細やかな表現は、今まで出会ったどの感性とも違うような気がして、冷たく底のない海に沈みながら読んでいるような気分でした。

 

ストーリーに対してはこんなもんで、実はこの本は、もう1頁目から別のことで感動していました。「なんて素晴らしい言葉を使うのでしょう!」

主人公に共感を生むエピソードの場面でも、今まで自分が感じたことのあることが、素晴らしく繊細にそして豊かに言語化されていました。解説にあった“人の語る言葉とは思えないほど人工的で自然で、詩的で的確である”とは、まさに読みながら全編通して感じていたことでした。

人工的、というのがまた言い得て妙で、便宜的に題には『言葉を紡げたら』と書きましたが言葉を紡いでいるというよりも、表現するのに的確な言葉を的確なタイミングで的確な場所に置いてある、そんな風に感じるほど過不足のない文章で、読んでいて「うわすげえ…」と思いながらずっと読んでました。

決して難しい言葉を並べているような文章ではありません。ただ文章の紡ぎ方、置き方が絶妙にハイセンス。なんでここにこんな表現が出てくるのか、と驚くような場面がたくさん出てきますが、冷たく絶望と幸せが同居したような雰囲気を表すには的確で、これ以外にはないと思わせるほど完璧です。一文の長さ短さのリズムも絶妙で、まさに詩的で美しい。

自分に物書きの才能があるとはこれっぽっちも思ってやいませんが、こんな風に言葉を操れたら、さぞかし素晴らしい世界が見えるんじゃないか、と強烈に憧れるような、そんな文章でした。

この手の小説を読むか

自分は、学生時代はライトノベルをちょこちょこ読んでいて、大人になってから『十角館の殺人』に出会ってミステリや叙述トリックにベタ嵌りした、そんな人間です。

普段はミステリやエンタメ小説ばかり読んでいます。

それらは爆発的な温度変化を伴う激流のように押し寄せ、脳内に快感をブチ込んできます。小説を読む楽しさ面白さをここに感じていますが、『ウエハースの椅子』は美しい星空に手を伸ばして、掴んだ星を組み合わせて輝く映像に持っていく、そんな感じのする作品でした。

細やかさ鮮やかさは素晴らしいですが、自分が普段読む小説に求める熱量は、また違ったベクトルのものかもしれません。それでも江國香織の描く美しさには魅了されましたので、またいいタイミングで他のものも読んでみたい、そう思わせてもらえたいい出会いでした。

おすすめポイント
  • 素晴らしく美しく、繊細な言葉の数々
  • 主人公に共感できれば、なんかトリップしてしまいそう

雑記

  • 実はこの本の記事は書かないでおこうかと思ってた。だってこの本の美しさを形容する表現力を持ち合わせていないから。でもその時の感情を文章化するのは、また客観的に自分を見つめなおせていいかもしれない。書いていれば自分も少しずつでも表現力は豊かになっていくものなのだろうか。

 

では、ピコでした。